ナーチャリング予算配分の理想と現実
2026/05/09
MAを導入し、MAの活用コンサルティングも依頼する。それでも成果が出ない。この状況に心当たりがあるなら、問題は予算配分にある可能性が高いです。
多くの企業のナーチャリング予算は、気づかないうちにMAとその活用支援に集中し、ナーチャリングの核であるコンテンツに回るお金がほとんど残っていません。ナーチャリングを機能させるうえでMAとコンテンツをどう位置づけ、どう予算を割り振るべきか。現状の問題点から改善の方向性まで整理します。
ナーチャリングを構成する2つの領域
BtoBマーケティングの要素は大きく3つに分かれます。
広告を中心とした「プロモーション」、発信するものを作る「コンテンツ」、そして配信・管理を担う「システム基盤(MA)」です。このうちプロモーションには多くの企業がマーケティング予算の大半を投じていますが、ここではプロモーションを除いた2つに絞って考えます。
ナーチャリングの2大要素はコンテンツとMAです。顧客との接点を生み、関係性を育てるのがコンテンツであり、そのコンテンツを管理・配信するのがMAです。この2軸の予算バランスがナーチャリングの成果を直接左右します。
にもかかわらず、「ナーチャリング予算」を独立した枠として考えている企業はほぼ存在しません。だからこそ、知らないうちにMAへの費用が積み上がり、コンテンツへの投資が後回しになる構造が生まれやすいのです。

ナーチャリング予算の大半はMAに消えている
MAツールはそれだけで高額
日本のBtoBマーケティングで広く使われるMAツールの主流は、HubSpot、SalesforceのAccount Engagement(旧Pardot)、Adobe Marketo Engageの3つです。これらはいずれも高度な機能を持つ半面、月額費用もそれに見合う水準になります。特にリードの総量が増えるほど費用が上がる料金体系であることが多いため、事業成長とともにコストが膨らむケースも多く、月額50万円を超えることはザラで、リード数が多い企業では100万円以上になることもあります。
見落とされがちなコンサルティング費用
これらのMAツールは機能が複雑なため、プロの伴走なしには十分に使いこなせません。導入時のコンサルティングは多くの企業が想定していますが、問題は運用フェーズに入ってからです。ステージの設計や施策の実行、分析・改善のサイクルを回すにも継続的な支援が必要になり、月50〜100万円規模のコンサルティング費用が発生し続けるケースは珍しくありません。
ツール費用と合算すると、月100〜200万円がMAおよびその活用支援に充てられます。年間に換算すると1,200〜2,400万円。これがすべて「ナーチャリングのためのコスト」として積み上がっており、コンテンツにはほとんど予算が残らないという構造になっています。
なぜ高機能MAが選ばれるのか
MAを選定する際、将来の拡張性を理由に高機能・高価格なツールが選ばれることが多いです。「後からリプレイスするのはデータ移行も含めてコストがかかる。最初から高機能なものを」という判断には筋が通っているように見えます。MAベンダー側からも「今後発展させていくなら高機能の方を」という提案がされやすく、これが選択を後押しします。
加えて、海外発のMAツールが持つブランドイメージも影響しています。「先進的なマーケティングを実現するツール」というブランディングに引き寄せられ、自社の現状や必要な機能を十分に検討しないまま導入を決めてしまうケースも少なくありません。
スコアリングによって見込み顧客を抽出していくアプローチを前提とするなら、確かに高度なMA機能が必要です。しかし、顧客の行動をトリガーにしたナーチャリングを設計するのであれば、顧客の行動ログが取れる程度の機能で十分です。
つまり、高機能MAが必要かどうかは、自社がどういうナーチャリング活動を行うかによって決まります。
実際の意思決定ではこの順序が逆になっていることが多く、「どんなナーチャリングをしたいか」を描く前にツールを選んでしまうため、使いこなせない高機能MAにコストが集中し続けます。

MAは基盤であり、成果を生むのはコンテンツ
「高機能なMAが成果を生むのか」という問いに対する答えはノーです。顧客にとって、企業がどのMAツールを使っているかは一切関係がありません。
顧客に届くのはコンテンツ。自分の課題に答えてくれるコンテンツが定期的に届く会社は信頼できる会社であり、そうでなければ不要な連絡を続ける会社。MAの機能水準はこの判断に何も影響しません。
MAは顧客データを管理し、よりよいコミュニケーションをとるための基盤です。その基盤を活かすためにこそ、コンテンツへの投資が欠かせません。
どれだけ高機能なMAを持っていても、配信するコンテンツがなければ何も起こりません。「イヴ・サンローランの財布を持っているが、中に入っているのは小銭だけ」みたいな状態が、現実に多くの企業で起きています。
MA導入時にコンテンツの議論がほとんどなされないまま話が進んでしまうことが多いのが実情です。
理想の予算配分|コンテンツ7割、MA3割
限られた予算をコンテンツに集中させるためには、MAに割く不要な予算を減らす必要があります。MAにかける費用が減れば、その分をコンテンツに回せる。コンテンツが増え、質が上がれば、ナーチャリングが活性化します。
理想を言えば、ナーチャリング予算の7割をコンテンツに、3割をMAに配分したいところです。現状の「ほぼ全額MA」という状態から考えると大きな転換ですが、コンテンツが顧客との関係を育てる核だという前提に立てば、このように配分する方が良いと言えるでしょう。
すでに高機能MAを導入している企業にとって、すぐにこの比率を実現するのは難しいかもしれません。しかし「どこに向けて投資すべきか」の方向性を持っておくことは、MAの契約更新時やリプレイス検討時に役立ちます。
また、プロモーションに割いている予算をナーチャリング予算に持ってくることで、ナーチャリング予算の総量を上げるという観点もあります。手段は何であれ、コンテンツに予算を割ける状態を実現することが、ナーチャリング成果を高めるうえでの肝となるのです。

MAコストを圧縮してコンテンツ予算を増やす4つのアプローチ
ナーチャリング予算の配分を理想に近づけるには、大きく4つのアプローチがあります。

①MA人材の内製化
コンサルティング費用を削減する最も直接的な方法は、MAを自走できる人材を社内に持つことです。
ただし、ここには注意点があります。「HubSpotを使っていた経験がある」というレベルでは代替にならないケースが多いです。求められるのは、ステージ設計やシナリオ構築を一から行えるスキルであり、実質的にはMAの導入支援経験に近い水準です。
利用者レベルと設計者レベルでは、必要なスキルが大きく異なります。内製化を目指す場合は、採用要件をあらかじめしっかり定義することが前提になります。
②自社のナーチャリング設計に合ったMAを選ぶ
まず自社がどんなナーチャリング活動を行いたいかを描いてみてください。それを整理すると、「実はここまでの機能は必要なかった」という結論になるケースが少なくありません。その場合は、シンプルかつ低コストなMAへの切り替えも選択肢に入ります。
大切なのは、ツールありきで設計を考えるのではなく、やりたいことから逆算して必要十分なMAを選ぶこと。その検討なしにコストを下げることだけを目的に切り替えても、コストが下がるだけで成果が出ない状況は変わりません。
③プロモーションの予算をナーチャリングに寄せる
マーケティング部門の予算の大半が割かれているプロモーションのコストを削減し、ナーチャリングに当てるという打ち手もあります。
昨今は集客の費用対効果が悪化し続けており、プロモーション偏重の予算配分は割に合わなくなっています。実際、グロースソイルが2025年末に実施した『BtoBマーケティング責任者のナーチャリング実態調査2026』では、93.2%の方が直近3年間でリード獲得コストが上昇したと回答しています。
集客施策が軒並み苦しくなっている今、ナーチャリングに予算を寄せるという判断は至って自然なものです。数値で見えやすい集客から見えにくいナーチャリングに予算を寄せることへの怖さはあるとも思いますが、中長期的に見れば良い判断だったとなる可能性が高いと考えています。
④スコアリングを手放し、ステージ設計をシンプルにする
MA導入時に多くの労力が割かれるのが、スコアリングの設計です。「このページを閲覧したら何点、このメールを開封したら何点」という累積スコアでMQLを定義するアプローチを、MAベンダーは標準的なやり方として推奨します。
しかし日本のBtoBマーケティングにおいて、このスコアリングモデルが実際に機能しているケースは多くありません。リードの母数が少ない企業では、統計的に意味のあるスコア設計自体が難しいのが実態です。
「スコアリングを使わないステージ設計の方が成果が出ている」という話をすると、「やっぱりそうですよね」と共感される場面が少なくありません。内心機能していないと感じながら、正解がわからないがゆえに続けている。そういう状態に陥っている企業が多いのが実情です。
スコアリングの設計・維持には継続的な工数とスキルが必要であり、それがコンサルティング依存のもう一つの要因にもなっています。
スコアリングを手放し、顧客の行動そのものをトリガーにしたシンプルなステージ設計に切り替えることで、MAの運用難易度は大幅に下がります。設計がシンプルになれば、コンサルティングへの依存度も下がり、浮いた予算をコンテンツに回せるようになるでしょう。
アクションナーチャリングを実装し、コンテンツに集中する
顧客の行動を起点としたナーチャリング設計とは、具体的にどういうものか。
どのコンテンツを読んだか、どのページを繰り返し訪問しているか、どの資料をダウンロードしたか。そうした実際の行動を軸としてステージとシナリオを設計するのは、「アクションナーチャリング」です。

※「アクションナーチャリング」はグロースソイルが独自に開発した理論で、現在商標申請中です
行動のレベル感に応じてステージを分けてしまえば、スコアリングは不要になります。また、行動ベースでステージが組まれているので、シナリオはステージと連動する形で設計できます。
このように、単純な論理をもとに設計したアクションナーチャリングは、MAの専門知識がなくても理解・運用できます。その結果、外部コンサルティングへの継続的な依存が減れば、その分の予算をコンテンツに投じられます。
まとめ
ナーチャリングの成否を左右するのは、MAの機能水準ではありません。顧客に届けるコンテンツの質と量です。
多くの企業でナーチャリング予算の大半がMAとその活用支援に消え、コンテンツへの投資が後回しになっています。MAを入れ替えても、コンサルティング会社を変えても、この構造を変えない限り状況は変わりません。
まず「MAに何割、コンテンツに何割を投じるか」を意識的に決めることが出発点です。成果を分けるのはコンテンツであると認識することが、ナーチャリング成果を上げる第一歩となります。
グロースソイルでは、ナーチャリングの無料相談を受け付けております。お気軽にお申込ください。
この記事の執筆者
株式会社グロースソイル
代表取締役
髙橋 航平
大学卒業後、新卒で人材系ベンチャー企業のネオキャリアに入社。マーケティング本部にて、新規BtoBメディア事業の立ち上げを経験。 その後、MAの導入活用支援会社に転職し、コンテンツ編集長として自社マーケティングと新規顧客開拓を推進。
2024年1月、株式会社グロースソイルを創業。BtoB企業のナーチャリング課題を解消できる会社づくりに取り組む。


