米国発のスコアリングモデルが日本で機能しない理由
2025/10/02
多くの企業がマーケティングオートメーション(MA)を導入した後、「スコアリングが思うように機能しない」という壁にぶつかっています。
「MQLが想定していたより生まれない」
「営業から『温度感の低いリードばかりだ』と不満が出る」
こうした壁に直面する理由の一つとして、米国で設計されたものを日本市場にそのまま適用していることが挙げられます。
市場規模が大きく、英語圏全体に展開できるため成立したモデルは、日本では通用しにくいのが実情です。また、「属性」と「行動」を点数化して累積する仕組みが、実際に顧客が関心を持っているタイミングとずれやすいことも、成果創出を妨げる要因となっています。
本記事では、米国で作られたスコアリングという概念がなぜ日本で機能しにくいのかを整理し、日本の市場環境に合わせて再設計した「スコアリングを使わないナーチャリングステージ」の考え方をご紹介します。
なぜ米国発のスコアリングは日本で機能しないのか
スコアリングルールは、MAツールを導入する際に多くの企業が設計するものです。「MQL(Marketing Qualified Lead:マーケティングで育成されたリード)」を定義するために、顧客の行動情報と属性情報を得点化するルールを設計しています。
しかし、日本企業ではこの設計が期待どおりに機能しないケースが目立ちます。その大きな理由は、市場環境の違いにあります。
HubSpotやMarketoといったMAを生み出したアメリカ市場の規模は大きく、英語圏全体にビジネスを展開できるため、熱量の高い顧客だけに絞っても十分に商談数を確保できます。
一方、日本は市場規模が相対的に小さく、日本語という言語特性から海外展開が難しいという制約があります。 そのため、米国式の「点数方式による顧客評価」を適用すると、アプローチ先が極端に減り、営業活動が行き詰まりやすくなるのです。
さらに、スコアリング方式そのものにも問題は潜んでいます。
「属性」と「行動」を累積して点数化すると、実際に顧客が関心を持っているタイミングとのズレが生じやすい傾向が見られます。
例えば、企業情報データベースの更新によって新たに属性情報が加わってスコアが100点に到達しても、その瞬間は顧客が何かアクションを起こしたわけではありません。
結果として営業は「数字上は条件を満たしているが、実際には温度感の低いリード」に時間を割くことになり、結果的に成果がなかなか上がらない負の循環に陥ることも少なくありません。

日本の企業が陥りやすい失敗パターン
米国式のスコアリングモデルをそのまま導入すると、多くの企業が同じ落とし穴にハマります。ここからは3つの具体的な失敗パターンを見ていきましょう。

MQL数値を追い続けて迷走する
MQLの基準を設計したものの、条件に合致するリードがほとんど出てこない。あるいは、基準を満たしたリードに営業がフォローしても顧客の熱量が低く、商談に至らない。こうした状況は珍しくありません。
根本を辿ると、MQLの定義をマーケティング部だけで決めてしまったというのがことの始まり、ということもあります。
日々顧客フォローをして「温度感の高いリード」を肌感覚でわかっている営業の意見を取り入れずにMQLスコアリングを設計すると、実態と乖離したスコア設計になってしまうことがあります。
結果として、営業からは「マーケが渡すリードは信用できない」という声が上がり、最終的には「セミナー参加者や資料DL者だけで十分」と単純なアクションベースのフォローに逆戻りします。
こうしてせっかく設計したMQLは形骸化し、営業とマーケティングの間に不信感だけが残ってしまいます。
Fit to Standardを盲信する
MAのデータ設計は難易度が高く、各社がカスタマイズしていった結果標準機能を使えない、といった問題も起こっています。そのため最近では、「Fit to Standard(標準に合わせよう)」というメッセージをMAベンダーが発信しています。
しかし、マーケティング/セールス活動をどのように設計すべきかは、時と場合に寄ります。各企業は知名度やビジネスモデル、営業体制などが異なるため、同じ型で実装すれば同じ成果が出るわけではありません。
機能を使いこなすために標準に合わせるところは合わせつつ、「自社が成果を挙げるためにどんな戦略を取るべきか?」を先に整理し、ステージなどは戦略に準ずる形で実装していくのがよいでしょう。
複雑な設計で現場を混乱させる
複数事業部を跨いで運用したり、スコアリングルールを詳細に作り込み混んだ結果、設計内容を関係者が誰も把握しきれず定着しないということも起こりがちです。
複雑化した結果、「なぜMQLが生まれないのか」「このリードはなぜMQLになったのか」といった議論がスムーズに進まず、マーケティング活動全体を停滞させてしまうこともあります。
スコアリングルールの複雑化によって意思疎通が阻まれると、結果として成果につながる施策に時間を割けず、社内の議論で手一杯という状況に陥ります。
成果を上げるうえで重要なのは、MAの機能を使いこなすことではなく、わかりやすくてチームが動きやすいルールを設計することなのです。
日本に合わせた「スコアリングを使わないナーチャリングステージ」の設計
米国式のスコアリングモデルが日本で機能しにくい背景を踏まえ、当社では顧客行動を軸に設計した「スコアリングを使わないナーチャリングステージ」の実装を推奨しています。
スコアリングによる数値の積み上げではなく、顧客が実際に起こした行動を基準にステージを定義する。営業現場でも直感的に理解しやすくなるのがこの設計の特徴で、具体的には下図のような4段階のステージに区分します。
このステージでは「スコアが何点を超えたらMQL」といったルール決めは不要です。
その代わりに、顧客行動と同時にステージが変わるシンプルなルールで運用することで、「今、熱量が高いリード」が一目でわかるようになっています。
実際にこのステージ設計を導入した企業では、ステージが上がるごとに商談化率が明確に上昇しました。具体的には、ステージ2では約3%、ステージ3では約8%、そしてステージ4では25%が商談に至るといった成果が出ています。
その結果、マーケティング部門は「どのステージのリードを何件生み出す必要があるか」が分かり、営業部門は「どのステージのリードまでフォローすれば必要な商談を生み出せるか」がわかるようになりました。
運用を成功させるポイント
顧客行動軸の設計はシンプルで運用しやすいものですが、それを根付かせるには少し工夫が必要です。
最後に、スコアリングを使わないナーチャリングステージを上手く運用するための4つのポイントをご紹介します。

1. ステージを下げて停滞を防ぐ
多くの企業は「ステージを上げる」ことばかり意識しがちですが、実際には「下げる」ルールを設けることも同じくらい重要です。
例えば、ステージ3に進んだものの一定期間経過したら自動的にステージ1に戻す、といった運用です。
こうすることで、「上位に滞留しているがゆえにナレッジコンテンツを届けられず、反応しやすいリードからのアクションを得られない」という事態を防ぐことができます。
2. シナリオを連動させてコンテンツを出し分ける
ステージごとに顧客の温度感は大きく異なるため、届けるコンテンツも調整する必要があります。
ステージ1:ナレッジ中心の記事やホワイトペーパー
ステージ2:事例紹介や導入のヒントになるコンテンツ
ステージ3:デモ、無料診断、相談会など直接的なオファー
このようにシナリオを連動させて届けるコンテンツをステージごとに出し分けることで、顧客の関心度に沿ったコミュニケーションを実現できます。
3. ステージを共通言語にする
従来のスコアリングではステージの設計が複雑化していて共通言語化しづらい面がありましたが、顧客行動軸のナーチャリングステージは設計がシンプルなため、共通言語化しやすいです。
例えば、ステージ1からステージ2に上げるためにやるべきことが明確なため、ステージを共通言語として議論をスムーズに進められます。
ステージそのものが成果を生むのではなく、共通言語化したステージをもとに適切な施策を打って初めて成果が生まれます。
4. 「いきなり実装」ではなく、合意を取ってから進める
新しいステージ設計を導入するときは、いきなりツールに実装せず、まずはGoogleスライドやPowerPointで可視化してマーケティング/営業の間で合意を取りましょう。その際「切り替え後1ヶ月間は正確なデータを取れなくなる」と事前に共有しておくと混乱を防げます。
ステージを共通言語化するには、関係者がそのステージに対して納得していることが重要です。納得しているからこそ、日常的に使われる言葉へと昇華していきます。
顧客行動軸のナーチャリングステージがもたらす変化
当社のサポートのもと、顧客行動軸のナーチャリングステージを導入した株式会社AGEST様では、実際に成果が生まれています。
支援事例:【株式会社AGEST】ナーチャリングコンテンツの強化で問い合わせ数2.5倍、受注率1.5倍を実現
同社では顧客行動軸のステージを実装し、そのうえでナーチャリングコンテンツを継続して配信することで、問い合わせ件数が2.5倍、受注率が1.5倍まで改善しました。また、現場での会話も大きく変わったといいます。
「今月この商談数をつくるには、ステージ2〜4で何件リードを増やせばよいか」が数字で把握できるようになった
従来のステージ設計ではマネジメントレイヤーの人でしか議論できなかったが、今は一般メンバーも施策検討に参加できるようになった
自社の事業環境に合わせたステージを設計しよう
米国で生まれたスコアリングモデルをそのまま日本に持ち込んでも、市場規模や言語圏の違いから成果が出にくいのが実情です。
日本企業がナーチャリングでに成果を出すには、顧客行動軸でステージを区分すること、営業とマーケティングの共通言語を持つことをおすすめします。一般に推奨されているスコアリングをベースとしたステージ設計を鵜呑みにせず、自社の事業環境に合わせて最適なステージを設計することで、各社が持つ可能性を最大限引き出すことができます。
「自社のMA運用をどう見直すべきかわからない」
「ステージを設計したのに成果が出ない」
そんなお悩みをお持ちの方に向けて、グロースソイルではナーチャリングの無料相談会を受け付けております。
グロースソイル代表の岩野がご状況を伺い、御社の現状を整理したうえで、進むべき方向性が見えるような情報をお伝えします。
「まずはざっくばらんに話したい」という段階でも構いません。お気軽にお申し込みください。
この記事の執筆者
株式会社グロースソイル
代表取締役
髙橋 航平
大学卒業後、新卒で人材系ベンチャー企業のネオキャリアに入社。マーケティング本部にて、新規BtoBメディア事業の立ち上げを経験。 その後、MAの導入活用支援会社に転職し、コンテンツ編集長として自社マーケティングと新規顧客開拓を推進。
2024年1月、株式会社グロースソイルを創業。BtoB企業のナーチャリング課題を解消できる会社づくりに取り組む。


