ナーチャリングのKPIはシンプルに|マーケ・インサイドセールス各部門が迷わず動ける指標の立て方
2026/08/31
MQLの件数は今月も目標に届いているものの、いざ顧客に連絡をしてみると相手の温度感が低く、なかなか商談につながらない。
スコアリングでMQLを定義していると、このように指標の数字と顧客の実態がズレることが珍しくありません。点数に置き換えられるほど、顧客の行動は単純ではないからです。
ナーチャリングのKPIは、シンプルに設計するほど、指標と実態が一致し、次に取るべきアクションが明確になります。
本記事では、なぜKPI設計が難しくなるのかを整理したうえで、マーケティング部門とインサイドセールスそれぞれの置き方、設計時に意識すべきことを解説します。
- スコアリングを軸にすると、追える指標がMQLしかなくなる
- そもそも、何のためにナーチャリングのKPIを立てるのか
- ナーチャリングはブラックボックス化しやすい
- KPIとモニタリング指標は分けて考える
- マーケティング部門のKPIは、ステージの上昇数で置く
- 行動でステージを定義する「アクションナーチャリング」
- 営業のリソースに合わせて、KPIの範囲を決める
- インサイドセールスは、インバウンドとアウトバウンドで置き方が変わる
- SDRとBDRは、両方そろって初めて機能する
- SDRは商談創出数をそのまま置く
- BDRは3ヶ月〜半年のスパンで置く
- ナーチャリングKPIの設計で外せない3つの視点
- 単純明快なものにする
- 次の部門の利益を考える
- 長期目線で考える
- ナーチャリングのKPIは、シンプルにできる
スコアリングを軸にすると、追える指標がMQLしかなくなる
一般的なセオリーに従ってナーチャリングのKPIを設計する場合、行動や属性ごとに点数を振り分けるスコアリングでMQL(Marketing Qualified Lead)を定義し、その創出数をKPIに置きます。
このとき、スコアリングが閾値を超えたタイミングと、顧客の熱量が最も高いタイミングがズレてしまう問題に直面することがあります。
たとえば、「法人データベースが更新されて属性情報の加点が入り、顧客が何のアクションも起こしていないのに100点を超えてMQLになった」といった状態で個別に連絡をしても、商談にはつながりません。
この例からわかるように、スコアリングでMQLを定義しようとすると、「管理に工数をかけている割に効果が見えない、商談が増えない」という状態に陥ります。
スコアリングを軸にナーチャリングを設計すると、置ける指標はMQLしかありません。そのMQLが機能しないために、ほかに何を追えばいいのかがわからなくなる。こうした状況から抜け出せずにいる現場は少なくありません。
そもそも、何のためにナーチャリングのKPIを立てるのか
では、ナーチャリングのKPIはどのように立てるとよいのでしょうか。この問いに答える前に、そもそも何のためにKPIを立てるのかを整理しましょう。
ナーチャリングはブラックボックス化しやすい
ナーチャリングの施策は、打った分がそのまま商談として返ってくるものではありません。
記事やメルマガ、セミナーは、いずれも顧客との関係をつくるための施策ですが、その場でCVが発生するものは限られます。このように、施策と商談の間に距離があることから、何が効いていて何が効いていないのかがなかなか可視化されません。
その結果、多くの企業が2つの問題にぶつかります。
1つは、誤った撤退判断です。例えば、顧客に役立つ情報を届けるナレッジ記事は、直接的に商品・サービスを紹介しないため、すぐにCVにつながることは稀である一方、顧客との関係構築には有効な施策です。しかし、「商談をどれだけ生み出せたか」というKGIだけで評価すると、意味のないもののように見えてしまいます。
もう1つは、投資判断ができないことです。うまくいっている施策に追加で投資し、そうでない施策を止めるという判断ができなければ、資本効率は改善していきません。一方、ナーチャリングの施策はうまくいっているかどうかをすぐに判断しづらいため、適切な投資判断をする難易度も高くなります。
このような「直接商談につながるわけではないが、必要な投資」を判断するためには、CVの手前に置く、中間指標が必要です。
KPIとモニタリング指標は分けて考える
中間指標は、KPIとモニタリング指標の2種類に分けて考える必要があります。
KPIは、成果責任を負う指標です。事業部や営業部門と合意したうえで、その数値を達成するために毎月の施策を決めていきます。
モニタリング指標は、施策の効果を定点観測し、継続・改善・停止を判断するための指標です。数値そのものに責任を負うわけではありません。

モニタリング指標としてグロースソイルが重視しているのが、収益への貢献度を測るアトリビューション分析の数値です。具体的には以下の3つに分けられます。
ファーストタッチ
どのチャネルから獲得したリードが、何件の商談になり、いくらの利益をもたらしたかラストタッチ
商談に至る直前に接したコンテンツ、つまり顧客が動く引き金になったものは何かマルチタッチ
リードの流入から商談化までの間に、顧客はどんなコンテンツに触れてきたのか
これらの数値は多岐にわたり、すべてをKPIにすると複雑になります。一方で、目標として追う指標と、施策の継続・改善・停止を判断するための指標を分けて観測すれば、指標の形骸化を防ぐことができ、成果の出るナーチャリングにつなげられます。
マーケティング部門のKPIは、ステージの上昇数で置く
ナーチャリングのKPIは、マーケティング部門とインサイドセールス部門で異なります。
まずはマーケティング部門のKPIから見ていきましょう。
行動でステージを定義する「アクションナーチャリング」
グロースソイルでは、ステージの定義に「アクションナーチャリング」という考え方を用いています。
アクションナーチャリングとは、顧客の行動そのものをステージの定義にする理論です。

※「アクションナーチャリング」はグロースソイルが独自に開発した理論で、現在商標申請中です
一般的に、どの行動を取ったリードが商談化しやすいかは、ある程度はっきりしています。最も商談化しやすいのは問い合わせをしたリード、次にサービス資料をダウンロードしたリード、その次に事例を閲覧したリード。このように、購買への近さに応じて商談化率は変わります。
ステージ1はハウスリストに存在するだけの状態で、そこから顧客の行動に応じてステージが上がっていきます。
ステージ1→2 ナレッジコンテンツに反応したリード
ステージ2→3 サービス・事例ページを閲覧したリード
ステージ3→4 サービス資料をダウンロードしたリード
ステージ4→5 問い合わせしたリード
顧客の複雑な行動をスコアで詳細に追跡するのではなく、行動のレベルを基準に大まかに分類し、それをそのままステージの定義にする。そうすることで、ステージごとに商談化率の見通しを立てやすくなります。
この設計のもと、「ステージ2に今月何件上がったか」という月次の上昇数をKPIに置けば、複雑なスコアリングを行わずとも、ナーチャリングの進捗を定量的に把握できるようになります。
営業のリソースに合わせて、KPIの範囲を決める
ステージを設定したうえで、どこからをKPIとするかは、営業部門のリソース状況によって調整します。
営業リソースが限られる場合は、ステージ4・5だけをKPIとし、2・3はモニタリング指標に位置づけます。2・3は、4・5を生み出す前の経由地点として見ます。
逆に営業リソースが潤沢な場合は、ステージ2〜5のすべてをKPIとします。アクションの総量を増やすことにコミットし、少しでもアクションを起こしてくれたリードを幅広く連携します。

こうして範囲を調整することで、マーケティング部門から渡したリードが確実にフォローされる状態をつくれます。
インサイドセールスは、インバウンドとアウトバウンドで置き方が変わる
インサイドセールスのナーチャリングKPIは、活動の種類ごとに分けて考えます。
SDRとBDRは、両方そろって初めて機能する
前提として、インサイドセールスの活動は、SDRとBDRに分かれます。
SDR(Sales Development Representative)
いわゆるインバウンド。資料ダウンロードや問い合わせなど、顧客側がアクションを起こしたリードに対するフォローBDR(Business Development Representative)
いわゆるアウトバウンド。顧客からのアクションがない状態における、架電やメールなどでの自発的な開拓
事業を拡大しようとすれば、SDRとBDRの両方が必要です。インバウンドで問い合わせが来ること自体は喜ばしいものの、その量や質は自社側でコントロールできません。
例えば特定の大手企業と取引したくても、その企業からの問い合わせを待っているだけでは可能性は低いままです。自社が望む未来を実現するためには、取引したい企業を名指しで決めて開拓する、ABM(アカウントベースドマーケティング)としてのBDRが必要になります。
SDRは商談創出数をそのまま置く
SDRは、商談創出数をそのままKPIに置いて問題ありません。購買に前向きな顧客が対象となるため、単月での管理でも比較的機能します。
ただし、問い合わせへの対応はすんなり進む一方、ホワイトペーパーのダウンロードから商談化を狙う場合は、まだ検討が始まっていない相手も多く、無理な打診になりがちです。この層については、次に述べるBDRと同様に時間軸を長めに取る判断も必要になります。
BDRは3ヶ月〜半年のスパンで置く
BDRは、商談だけを単月で追うと、売り込み型のアプローチになってしまいます。目標設定のスパンを3ヶ月〜半年単位にすると、いきなり商談の話をするのではなく、お役立ちコンテンツを紹介するなど、利他的なコミュニケーションが取りやすくなります。
たとえば1ヶ月に20件の商談が欲しい場合、「3ヶ月で60件の商談創出数」を目標とし、そのうえでSAL(Sales Accepted Lead)の数を中間指標として設定します。SALは一般に、営業部門が営業活動の対象として受け入れたリードを指す用語ですが、グロースソイルでは「自社から連絡すれば反応があると見込まれるリード」と定義しています。SALからの商談化率が10%見込めるなら、3ヶ月でSALを600件つくれば商談60件に届く、という逆算が成り立ちます。
あわせて見ておきたいのが、アポからの案件化率です。商談創出数だけを追っていると、「優先的にアプローチすべき相手」ではなく「連絡がつきやすい相手」にアポを入れてしまう、買う気のない相手から数合わせのアポをもらう、といったことが起こります。人事評価の指標としては、商談創出数を8割、案件化率を2割程度の比重で見るのが1つの目安です。営業の仕事は最終的に売上をつくることである以上、その手前の質まで含めて評価する設計が求められます。

ナーチャリングKPIの設計で外せない3つの視点
最後に、ここまでの内容を踏まえて、ナーチャリングのKPIを設計するうえで意識すべきことを3つ挙げます。
単純明快なものにする
私が相談を受けるなかで、ナーチャリングのKPIが機能しない原因として多いのは、スコアリングの定義が複雑になっていることです。
実際の顧客の行動は、その動機もバリエーションも多岐にわたり、送り手側からそのすべてを読み取ることは不可能です。だからといって、それに合わせて管理する側の指標まで複雑にしてしまうと、現場は身動きを取りづらくなります。
指標の意味がわかりづらくなると、「この指標を達成するために結局何をすればいいのか」と迷いながら取り組むことになり、パフォーマンスが低下します。
そのため、「自分たちがどんなマーケティング・セールスコミュニケーションをしたいのか」「顧客の動きをどう測るのか」を考え、できる限り単純なルールにしておくことが大切です。
グロースソイルでも、追う指標の数は絞っています。マーケティング部門はアクションナーチャリングによるステージの上昇数、インサイドセールスはSALと商談創出数だけ。指標を増やさないことが、そのまま現場の動きやすさにつながると私は考えています。
次の部門の利益を考える
マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールスへと連なる組織(レベニュー組織)では、集客から受注に向かってボールが渡っていきます。だからこそ、自分の次の役割を担う部門が得をするには、どんな目標設定をして、どんな活動をすればよいかを考えることが重要です。
たとえば、インサイドセールスが動ける状態にないにもかかわらず、マーケティング側が「MQL数がKPIになっているから、とにかくMQLを増やしたい」という都合で動いてしまえば、フォローが追いつかない、または自社に合わないMQLを無理やり渡してしまうなどの行動につながり、部門間の軋轢を生みます。
インサイドセールスからフィールドセールスへのパスも同様です。フィールドセールスは他部門との調整を含めた提案業務に手がかかり、常に忙しい状態にあります。案件化率の高いアポをつくる、受注金額が大きくなりやすい顧客を渡す、自社のターゲットに合致したリードを出す。そうやって次の部門が売上を上げやすいパスを設計できるチームは、長期的に見て成果を出しやすくなります。
長期目線で考える
前述のとおり、単月で目標を置くと、売り込み型のコミュニケーションになりやすくなります。最低でも3ヶ月、できれば半年で目標を設定することで、利他的なアプローチが取れるようになります。
なかには、売り込みを避けながら単月の目標も達成する優秀な営業担当もいるでしょう。ただ、そうした動きができるのは、日頃から築いている関係のなかから今月分の商談を出せるという余裕があるからです。
今月の成果を今月からつくり始めなければならない状態では、誰であっても目先のアポを取りにいくほかありません。
人が取る行動や生み出す成果は、その人の能力よりも、組織の設計や目標の置き方に規定されます。会社が短い時間軸で目標を置けば、そこで働く人の動きも短期志向になります。逆に、長い時間軸を組織として持つことが、目先のアポではなく信頼を積み重ねる活動を支えるのです。
【参考】当社Podcast番組『ナーチャリングラジオ』
「ナーチャリング」という名のリード殺し活動を脱するには
(ゲスト:Well Direction 代表/BtoB営業アドバイザー 向井 俊介 氏)
ナーチャリングのKPIは、シンプルにできる
スコアリングの仕組みで管理しようとすると、ナーチャリングのKPI設計はどんどん複雑で、難しいものになります。
しかし、この記事で解説したように「顧客の行動」をもとにステージを定義すれば、マーケティングであれば「各ステージに何件引き上げたか」、SDRなら「商談創出数」、BDRではそれに加えて「SAL」といったように、シンプルな指標に帰着します。
単純明快にすること、次の部門の利益を考えること、時間軸を長く持つこと。この3つを押さえれば、KPIは現場で機能する共通言語になり、結果として、商談という成果に着実に近づいていけるはずです。
グロースソイルは、BtoBのナーチャリングを戦略からコンテンツ制作、システム基盤の構築まで一貫して支援しています。
15分間の無料相談を受け付けていますので、「ナーチャリングについてのちょっとした疑問を解消したい」という方は、ぜひご相談ください。
この記事の執筆者

株式会社グロースソイル
代表取締役
髙橋 航平
Adobe Marketo Engageの導入支援会社にてコンテンツ編集長を務めたのち、2024年に株式会社グロースソイルを創業。
ナーチャリングに特化して、マーケティング支援サービスを展開。独自のナーチャリングモデル『アクションナーチャリング』をもとに、BtoB企業に顧客志向のナーチャリングを実装している。



