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【イベントレポート】顧客と向き合う時間を取り戻す。シンプルなナーチャリング設計術

【イベントレポート】顧客と向き合う時間を取り戻す。シンプルなナーチャリング設計術

2026/08/28

成果を求めてナーチャリングを精緻に設計すると、スコアリングのルールや配信シナリオの分岐、ツールの設定が複雑になっていく。仕組みのメンテナンスや社内調整に時間を取られ、本来もっとも時間を割くべき「顧客と向き合うこと」が後回しになる。

このような本末転倒に陥っているBtoB企業は少なくありません。

では、シンプルなナーチャリングを実現し、維持するには、どこから手をつければよいのでしょうか。

この問いに向き合うべく、2026年8月18日、株式会社ベーシックナイル株式会社、株式会社グロースソイルの3社は共催イベント「顧客と向き合う時間を取り戻す シンプルなナーチャリング設計術」を開催しました。

当日は、BtoBマーケティング・セールスSaaS「ferret」を提供する株式会社ベーシック ferret事業部 マーケティング責任者の林侑平さん、SEOを起点にデジタルマーケティングを幅広く支援するナイル株式会社 マーケティングユニット マネージャーの大脇功暉さん、ナーチャリングによる事業成長支援を専門とするグロースソイル代表取締役の髙橋航平が登壇。

本記事では、支援者と実践者の両面からナーチャリングに携わる3名が、ナーチャリングの設計が複雑化する原因と、身軽な設計へ切り替える方法について語り合ったパネルディスカッションの様子をまとめています。

「自社のコンテンツだけで顧客が育つ」という前提が、設計を複雑にする

—— ナーチャリングの設計はなぜ複雑になってしまうのでしょうか。日々の支援や自社の運用で感じていることをお聞かせください。

ナイル 大脇氏:
ナーチャリングは、日本語に訳すと「お客様を育てる」という意味になります。この「育てる」という言葉に引っぱられて、スコアリングのルールを組んだり、お客様を検討フェーズごとに分類したりといった仕組みづくりへ進んでいく企業が多いんです。ただ、その設計が前提にしている理想と現実は、かなりかけ離れています。

私がこれまで支援してきた企業では、「自社が発信する記事やメルマガを読んでいくうちにお客様の検討度が上がっていく」という想定でシナリオを組んでいるケースが少なくありませんでした。一方、実際にはさまざまなチャネルやコンテンツがあるなかで、自社のコンテンツだけを見て検討度が上がることはほぼないと思っています。

具体的には、他社のブログやウェビナーを見る、あるいは他社に問い合わせて商談まで進むなかで検討度が上がって、決定直前になって初めてご連絡をいただくケースもあります。最近はAI検索で検討度が上がったタイミングで自社のページに来られる方も増えていますね。

ナイル様の投影資料「自社コンテンツだけでナーチャリングをするのは不可能?」

ナイル様よりご提供いただいた資料

「購買意欲が徐々に醸成される」という考え方も実態とは違っていて、BtoBでは上長からサービスの検討を指示されて急いで動く担当者が多く、検討フェーズが一気に上がることも多い。私はこの前提でしっかり設計を組むことが大事だと思っています。

髙橋:
おっしゃる通りですね。私も自社のMAやスコアリングのルール設計、顧客のご支援の両方を経験していますが、MAのスコアリングによって見込み度が高い状態を定義するのは簡単ではないと思っています。

しかも、それをやっている期間は、社内の内向きな議論に終始してしまいます。「なぜこのリードはMQLにならないのか?」を都度確認していると、マーケティング責任者やメンバーの時間がどんどん社内ルールの議論に使われていくことになる。

だからこそ、ベースのルールはできる限りシンプルであるべきです。一方で、一般的なセオリーに従うと設計はどんどん複雑になってしまう。ここに構造的な矛盾があるなと感じています。

ベーシック 林氏:
リードは育てようと思って育つものではない、というのは本当にそうだなと思いますね。

お客様の検討度がいつ上がるかは、我々プレイヤーがコントロールできるものではありません。それなのに、育てる前提で仕組みを組もうとするから、ルールが複雑になっていくのだと思います。

「行動検知」と「接点構築」に集中することで、ナーチャリングはもっと身軽になる

—— 身軽なナーチャリング活動に生まれ変わるためのセンターピンは、どこにあると考えますか。

ナイル 大脇氏:
弊社では、検討度が上がったタイミングをいかに察知するかと、その手前でどれだけ接点を持つかの2つだけを意識するようにしています。

検討度が高まるタイミングはケースバイケースなので細かな分析は必要ですが、問い合わせや有効な商談につながる手前でどういう動きをしているかは、MAツールを入れていれば簡単にわかると思います。弊社では、そういったシグナルを検知したらSlackに通知が飛ぶようにしていて、通知を見たらすぐ架電します。検討度が高まった瞬間を逃さずにアプローチをする、というオペレーションですね。

接点の中心となるメルマガについては、頻度を週1、2回にしています。プッシュしすぎるのは逆効果なので、情報提供に徹する「ギブメルマガ」が7~8割の割合になるようにしていますね。コンテンツの企画を立てるうえでは、お客様が何にどう悩んでいるのかをセールスメンバーに聞いたうえで、しっかり企画に落とし込むということも意識しています。

あと、最近好調な施策として、「売らない商談をする」というのがあります。商談中はお客様の役に立つような情報提供に徹し、サービス紹介は最後の1~2分だけという内容で、これをマーケティングチームを中心に実施しています。

イベント当日の様子

髙橋:
サービスを売るための商談ではなく、相談を受ける場そのものをコンテンツとして出しているということですか。

ナイル 大脇氏:
そうです。弊社はSEOやAI検索の会社なので、「LLMの無料相談・診断をします」というかたちで、お客様向けのレポートをこちらで作って説明を差し上げるんです。裏側はうちのノウハウを詰め込んだAIで自動化しているので、実は工数はそこまでかかりません。

ベーシック 林氏:
そこから案件化するケースもあるんですか?

ナイル 大脇氏:
あります。ただ、まだ検討の初期段階にあるお客様に受けていただくケースがほとんどなので、相談からだいぶ時間が経ってからのケースが多いですね。今すぐではないけれど、半年後、1年後に本格的な検討を開始したタイミングで思い出してもらえている状態を目指しています。

髙橋:
長い目で見れば、そちらのコミュニケーションのほうがいいだろうという判断ですね。

ナイル 大脇氏:
そうですね。実際に3ヶ月、半年後に有効な商談や受注につながっているケースが出てきているので、中長期で見ると数字に響いてきています。体力がいる施策ではありますが……。

ベーシック 林氏:
弊社でも15分間の無料相談をやっていて、これがコンバージョンが結構出るんですよ。直近では、しばらくアクションがなかった休眠顧客に対してMAの無料相談をCTAにしたメルマガを一斉配信した結果、一気に20件ほどの申し込みがありました。

あくまで接点を持ち続けるという目的で行うのであれば、無料相談は効果的だと思います。15分も会話をすれば先方の温度感はだいたいわかるので、反応に応じて次のセミナーの企画をご案内したり、相談内容に近いテーマのホワイトペーパーをお送りしたりと、お客様の役に立つコンテンツをお渡しすることで、信頼を獲得することにつなげています。

髙橋:
15分というタイトな時間であれば、売り手側も「どうにか売り込みたい」といった下心が出る間がなく、ギブに徹することができますよね。

—— メルマガのお話がありましたが、告知中心のメルマガでは開封率が落ちるという声があります。頻度や内容について、意識していることがあれば教えてください。

ナイル 大脇氏:
そこは今まさに悩んでいるところで、お二方の意見を聞きたいと思っていました。接点を持つために頻度は高くしたい反面、過去にウェビナーの告知ばかりを送った結果、開封率がかなり下がったりオプトアウトが増えたりしたことがあって。内容はかなりギブに寄せているのですが、お役立ちコンテンツをつくるのには労力がかかりますし、本心では告知もしたいですよね。

ベーシック 林氏:
私は、イベントの告知もギブかなと思っています。ターゲットとなる人たちが欲しい情報であれば、それは十分ギブだなと。どちらかというと、ご案内するイベント自体のテーマがちゃんとお客様にとって役に立つ内容であるかに気をつけるようにしています。

弊社ではメルマガを毎日3本ほど送っていますが、オプトアウトは0.03%程度です。いかにターゲットの方たちが欲しい情報を送れるかを意識してコンテンツ作りをしているという感じですね。

髙橋:
私が意識しているのは、メルマガにしろSNSの発信にしろ、すべての接点をコンテンツ起点にすることです。

たとえばメルマガで記事やウェビナーのお知らせをしたいとき、メール内リンクをクリックした先にだけコンテンツがあるのではなく、メルマガの本文自体を読み応えのあるものにするんです。記事の紹介であれば記事の一部を抜粋する、ウェビナーのお知らせなら当日話す内容をチラ見せするといったかたちですね。メルマガ自体が読んでいて面白いものであれば、それを喜んで読んでくれる人も少なからずいると思います。作るのに少し負荷はかかるのですが、そこは意識しています。

ベーシック 林氏:
コンテンツについては、よく言われていることではありますが、いかにお客様の解像度を高めるかがやっぱり重要だなと思っています。

コンテンツを企画するとき、マーケティングチームが「お客様にはこういうものが刺さるんじゃないか」と想像して作るケースって少なくないですよね。ただ、これで外すケースがすごく多いと思っていて。重要なのは営業メンバーがお客様と会話している生の実データ、つまり商談データをいかにコンテンツに活かせるかということなんです。

弊社で言うと、SFA上にどんどんアップされていく商談データから肝となるキーワードは何かを抽出して、定期レポートのようなかたちでSlackに通知させています。それを使って、生の声、生のキーワードでコンテンツを作っていくということをやっていますね。

シンプルな共通言語とフェーズ別のコンテンツで、顧客と向き合う時間を取り戻す

—— ギブを続けるのは簡単なことではありません。継続に向けてはどのようなポイントを意識すべきでしょうか。

髙橋:
ギブをし続けるために、社内の共通言語が必要だと思っています。共通言語がないと、最終的に目指すゴールである商談にどうしても活動が寄っていってしまうものです。

弊社では、マーケティング活動の共通言語として「アクションナーチャリング」という独自の理論を使ったステージ設計をおすすめしています。これは、お客様の行動レベルに応じて、行動していなかったら「1」、ナレッジ記事に反応してくれたら「2」、事例に反応してくれたら「3」、資料をダウンロードしてくれたら「4」、問い合わせしてくれたら「5」といったように、顧客の行動とステージを直接紐づけるものです。

ステージによってアプローチも変えています。たとえばナレッジ記事を見てくださった方に対していきなり「今から商談させてください」と言うのは、ちょっと押しが強すぎるじゃないですか。なのでその段階では、イベントのお知らせや、お電話するとしても情報提供にとどめて信頼関係を築きながらステージ3に誘導できるようにするのがベターです。

一足飛びにならないコミュニケーションを設計するのが大事だと思っています。何らかのかたちで、「このベースルールで動いていきますよ」というものがあると、過度に多くを求めてしまうのを防げると考えています。

—— フェーズごとに、どのようなコンテンツを用意すればよいか悩む方も多そうです。

ベーシック 林氏:
ターゲットと抱えている課題を洗い出すと、コンテンツのテーマが見えてくると思います。

たとえば、BtoB向けの商材を売りたい飲料メーカーがあったとします。サービスを今すぐ導入したいわけではない潜在層に向けたコンテンツを企画する場合は、「福利厚生」「社員満足度」「オフィス改善」などがキーワードになってくるはずです。このキーワードをもとに、記事であれば「出社したくなるオフィスとは」、ホワイトペーパーなら「出社率改善ガイド」といったものを用意して配信していく。準顕在層には導入事例や他社さんとの比較をキーワードにしたコンテンツが効いてきます。

顕在層に向けては「稟議書テンプレート」「比較チェックリスト」「ROI計算シート」を用意しておくと、いざこのフェーズになったときに営業からすぐお渡しできます。マーケティングで活用するだけではなくて、営業がすぐにお客様に提供できるものを用意するのも大切で、営業メンバーのためにコンテンツを作っていると言っても過言ではないほど、弊社では営業の声を聞きながらコンテンツを作っています。

ベーシック様よりご提供いただいた資料

結局のところ、ナーチャリングは複雑なルールを組むことではなく、いかに信頼を得られるか、いかにギブができるかに尽きると思っています。そしてギブの精度を決めるのは、お客様の解像度です。想像で企画するのではなく、営業が持っている商談データという生の声をどう活かすか?というところに立ち返れば、仕組みはもっとシンプルにできるはずです。 


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この記事の執筆者

グロースソイル編集部