顧客インタビューで相手の本音を引き出すコツ
2024/09/02
自社の顧客がサービスや商品のどこに魅力を感じているのか。その本音を探るために欠かせないのが顧客インタビューです。
しかし、顧客と直接会話を交わす機会が少ないマーケターのなかには「どう質問すれば良いのか」「相手の本音を引き出せるだろうか」「緊張して話が途切れてしまったらどうしよう」といった不安を抱く方も少なくないでしょう。
そこで今回は、『聞く習慣』の著者で、ライター・作家のいしかわゆきさん(以下、ゆぴさん)にインタビューしました。自信を持ってインタビューに臨むためにしておきたい準備や、相手が話しやすい雰囲気をつくる方法、そして本音を引き出すテクニックまで、すぐに役立つ実践的なコツを伺いました。
「上手に話を聞きたい」という意識が強すぎた新人時代
――著書『聞く習慣』を拝読しました。ゆぴさんご自身はもともとインタビューが苦手だったんですね。
私、本当に人とのコミュニケーションが苦手だったんですよ。 初対面の人との会話や、目的のない雑談については今でも苦手意識があります。
インタビューのお仕事も、最初は全然乗り気じゃなくて。私は『新R25』というWebメディアの編集部でライターとしてのキャリアをスタートさせたのですが、当初は一人で完結するコラムを書くつもりでチームに入りました。
でも、私がちょうど編集部に入ったタイミングで、メディアがインタビューメディア路線に舵を切ることになって。たしかにインタビューは掲載されていたけれど、コラム枠を担当する気満々だったので、「どうしよう…」と思いましたね。

初めてのインタビューの日は、取材に向かう前からとにかく憂鬱な気持ちでした。取材中も緊張してガチガチだったと思います。慣れるまではいろいろな失敗を経験しましたよ。
――ゆぴさんにもそんな新人時代があったのですね。当時はどんな失敗をしたのでしょうか?
話を聞いている時のリアクションが自覚しているよりも薄かったのか、インタビュー相手から「話、聞いてます?」と言われたり、極度の緊張で頭が真っ白になり、質問の途中で話が迷子になったり。あとは、インタビューの進め方をよく知らなかったので、ただ用意してきた質問を順番に聞くだけで、何の深掘りもせずに取材が終わったこともありました。
当時は「変な空気になったらどうしよう」「同席している先輩や編集者に“下手くそインタビュアー”だと思われたら嫌だ」という不安が大きくて。インタビューって本来は相手に意識を向けなければいけない仕事なのですが、以前の私は「上手に話を聞きたい」と、自分に意識が向きすぎていたのだと思います。
徹底的な準備が、インタビュー当日の自信につながる
――『聞く習慣』には、相手の話を引き出すための考え方やコツが詰まっていました。本に書かれていた知識はどのように身に付けていかれたのでしょうか?
先輩の取材に同席した時に学んだ知識もあれば、直接教えていただいたものもあります。
たとえば、私が著名人へのインタビューを担当することになった時、まず先輩に教えてもらったのは、インタビュー相手の著書を読み込み、付箋を大量に貼った状態で現場に持参するという、結構ベタな小技でした。

ーー今日、私も付箋付きの本を持ってきているので、なんだか恥ずかしいです…!
これ、してもらう立場から見ても、やっぱり嬉しいんですよ!自分に興味を持ってもらえたり、たくさん調べてきてもらったりして嬉しくない人って多分いないですし、それだけ準備してきてくださった方には自然と心を開きたくなるものなんです。
好意や関心をアピールする方法は、ほかにもいろいろあります。私がアイドルの方に取材をする際には、事前に過去リリースされた曲を片っ端から聞いたり、SNSの発信を追いかけたり、これまでのインタビューすべてに目を通したりします。相手のオタクになる勢いで、調べに調べるんです。
そこまでやれば、当日は「これだけ準備したんだから大丈夫」と自分に自信を持てるようになるし、緊張もそこまでしないんですよね。
徹底的なリサーチは、相手へのアピールだけではなくて、自分が安心するための材料にもなりますよ。
――なるほど。では、顧客インタビューのように相手の情報にアクセスするのが難しい場面では、どんな準備ができるでしょうか。
顧客インタビューの場合、事前に簡単なアンケートを作成し、想定質問に対する回答を先にいただいておくのも一つの手です。実際に私も、事例記事や社員インタビューを制作するお仕事では、案件概要シートのようなものをExcelで作成して先方に共有するようにしています。
アンケートの回答が手元にあれば、その回答を深掘りする質問や取材の流れをイメージしやすいですよね。相手も、当日聞かれそうなことを知っている状態の方が心の準備をしやすくなります。
あまり話すことに慣れていない方にインタビューをする場合、スラスラと言葉が出てこないことも多いので、事前にベースとなる回答を回収しておくのが一番確実です。
ーー確かに、お互い話がしやすくなりますね。1時間程度のインタビューの場合、ゆぴさんなら質問をいくつくらい用意しますか?
ユーザーインタビューでは、相手があまり話さなかったり「詳しい内容は資料をご覧ください」と返ってきたりして、想定よりもさくさくとインタビューが進行することも結構あります。そうすると、質問が足りなくなるんですよね。
そのため、私はいつも質問を少し多めに用意しておきます。1時間のインタビューであれば10個以上の質問を用意して、大事な質問は事前アンケートでも聞いておく。当日は、絶対に聞く質問と、時間に余裕があれば聞きたい質問を分けて用意しておけば、時間が余っても困ることはないんじゃないかなと思います。
ーー質問づくりで押さえておきたいポイントも教えていただきたいです。
定量的・定性的な情報を質問を用意することですかね。「〇〇な状態から△%改善しました」といった定量的なデータはまず絶対にほしいです。
でも、パーセンテージだけ見ても、結局どれくらいすごいことなのかがわかりづらかったりします。なので、社内でどんな反響があったのか、あるいは社外からどんな言葉をかけられたのかなど、定性的な評価に関する情報もいただけると、よりビフォーアフターの状態が具体的にイメージしやすくなると思います。
オフィシャル感を出しすぎず、話しやすい空気をつくる
――インタビューで相手の本音を引き出すのは難しいですよね。何か初心者でも実践しやすいコツのようなものはあるでしょうか?
相手がインタビューに慣れていない場合、おそらく当日は多少なりとも緊張されているはずなので、アイスブレイクで場を和ませることを意識するのがよさそうです。
たとえば、事前に相手の会社に関する情報をチェックしておけば「こんなことやってるんですね」「こんなプレスリリースが出ていましたね」といった話ができますよね。こんなふうに場を温めるためのネタをいくつか持っていくのがおすすめです。
あとは、”オフィシャル感”をあまり出さないようにするのも意外と大事な気がします。聞き手側があまりビシっとしすぎると、相手も「変なことが言えないな」「しっかりと話さなきゃ」と身構えてしまうと思ってて。「今日はざっくばらんに話してください」「改善点も教えてほしいです」とお声がけしながらフランクに話せる空気をつくることは、私自身がアイスブレイクの際に意識しているポイントですね。
相手の緊張を高めるのもほぐすのも、自分次第です。最初に話しやすい空気づくりができれば、あとは雑談をするように、自然な会話を楽しむくらいの感覚で大丈夫だと思いますよ。
――まず、聞き手側がリラックスすることが大事ということですね。では、話が本題に移った後に意識するべきことはありますか?
アイスブレイクの考え方と同じで、なるべく相手を緊張させないように、話しやすい雰囲気をつくるのに徹するのがいいと思います。
これはそんなに難しいことではないんですよ。ちょっと前のめりの姿勢で、相手の目を見ながら笑顔でうなずくだけでも、だいぶ印象は変わりますよ。こんな感じですね。

実際に前のめりで微笑むゆぴさん
ーーこんなふうに聞いていただけると、なんだか「私、今相手が聞きたいことを話せているのかも」という気がしてきますね! ほかに何か注意した方がいいことはありますか?
相手の話の中でわからないことがあった時、ちゃんと自分が理解できるまで聞くようにすることでしょうか。
業界用語や専門用語が出てきた時、よくわかっていないのに聞き流してしまうと、本当に大事な部分を聞き出せなくなる可能性もあります。だから、知らないことを恥ずかしいと思わず「それってどういう意味ですか?」と素直に聞くのがいいと思います。
本音を引き出すために必要なのは、”クッション”になる言葉
――インタビューには、限られた時間内で情報を引き出さなきゃいけない独特の緊張感があると思います。タイムマネジメントに関して何か意識してることはありますか?
質問を全部聞き切ることをゴールにしないように意識しています。
絶対に押さえておくべき質問に時間をかけて、それ以外はさらっと聞く。ただ、それでも後半で時間が足りなくなることもありますよ。その時は優先順位の低い質問を思いきり飛ばします!

――質問を捨てる勇気、大切ですね!絶対に押さえておくべき質問で、一言しか回答をいただけないこともあるかと思います。この場合、ゆぴさんだったらどうしますか?
それって、もしかすると相手は「この後もっと詳しく聞いてくれる質問がくるかも」と思っているかもしれないですよね。どこまで詳しく話せばいいのか悩むから、とりあえず最初は簡単に答えておいて、あとはインタビュアーに委ねよう、みたいな。
一問一答で終わらないためには「それってどういうことですか」のように、とにかく具体を聞くのがいいと思います。「こちらはこれぐらい知りたいんです」と伝えるイメージですね。
そういう意味では、最初のアイスブレイクでインタビューの主旨をちゃんと説明しておくのも大切だと思います。何のためにどんな情報がほしいのかを伝えておかないと、相手も何を話していいのかわからなくなってしまうので。
ーーなるほど。相手のキャラクターや状況に応じて聞き方をを変えるのって、コミュニケーション能力が問われる部分ですよね。
質問や相づちのパターンを覚えてしまえば、意外と難しいことではないんですよ。
最近、和気香子さんの著書『人の気持ちがわかる人、わからない人』を読んだのですが、そこには『「いいね!」「具体的には?」「他には?」の3つの単語と相づちを打つだけでコーチングはできます』と書かれていたんですよ。この部分を読んだ時、確かに!と思いました。
特に「いいですね」「すごいですね」と相手の話を肯定するワードって、すごく大切だと思うんです。「この話面白いかな?」「この方向性でいいのかな?」と迷いながら話しているインタビュイーを安心させる相づちを打つことで、相手は「これでいいんだ」と自信を持って話すことができる。そうすると、良いお話を聞ける確率は高まります。
本に書かれていた3つの相づちを使うと、例えば
「弊社のサービスのどんな点を気に入っていますか?」
「ホスピタリティに溢れているところです」
「どういうところにホスピタリティを感じましたか?」
「〇〇なところですね」
「ありがとうございます。他にはありますか?」
「△△なところにもホスピタリティを感じました」
「いいですね!」
「そうなんです。〜〜(具体的なエピソード)」
と、自然に相手の話を深掘りできますよね。だから、パターンさえ覚えてしまえば、インタビューは怖くないんですよ。
ーーすごい、1つの質問から3回のラリーが!では、相手が答えに詰まった場合はどうしたらいいでしょう。
対処法はいろいろあります。まずは、一旦沈黙を味わう。 会話が途切れることを怖がる方も多いのですが、相手から言葉が出てくるまで待つことは全然悪いことではありません。
あとは、これまでの流れを振り返りながら「つまりこういうことですかね」と相手の話を整理したり「たとえば、こういうことですか」とたとえ話を出したりする方法もあります。
言葉が出てこないからといって質問攻めにするのではなくて、相手が話しやすいようにクッションになる言葉を挟んでいく。私自身はそんなイメージで相手の言葉を引き出すようにしています。
検索では知り得ない顧客の声に触れる
――ずばり、インタビューを成功させるための心構えを教えてください。
そもそも、インタビューの成功ってなんだろう?というところを考えたいですよね。
インタビューの目的は、必要な情報を相手から引き出すことです。今回のテーマであれば、お客様が製品やサービスのどんなところによさを感じたのかを聞いて、今後のマーケティングに生かすのがゴールになるでしょうか。
もしインタビュー中にスラスラ喋れなかったとしても、多少の沈黙ができてしまったとしても、話が途中で脱線したとしても「相手の話を引きだす」という本来の目的さえ果たせれば、個人的にはそれで全然いいと思うんです。

――最後に、これから初めての顧客インタビューに挑戦するマーケターに向けて、ゆぴさんからメッセージをお願いいたします。
インタビューの最大の魅力は、一次情報を得られるところだと思っています。
たとえば、自社製品に対するリアルなフィードバックって、いくらネットで調べても絶対にどこにも載っていません。だからこそ、限られた時間内で必要な情報をきちんと聞くという目的意識を持つのが何よりも大切だと思います。
あまり肩に力を入れすぎず、お客様の声を聞ける貴重な場を楽しんでみてください!
ゆぴさんの書籍「聞く習慣」発売中!
人見知りで他人にまったく興味がないというゆぴさんが書かれた1冊。インタビューライターを通じて得た「聞く力」が余すことなく詰まっています。
人と何を話したらいいのかわからない
会話の合間の沈黙が怖い
人に興味がなさすぎる
そんな方たちはぜひ、お手に取ってみてください!
この記事の執筆者
株式会社グロースソイル
コンテンツディレクター
西村 和音
大学卒業後、専門商社および外資系企業にて、営業・貿易・D&I推進などの幅広い業務を経験。その後、フリーライターとして独立し、ビジネス分野の記事や書籍制作における取材・執筆を数多く手掛ける。
2025年1月、株式会社グロースソイルに入社。これまでのキャリアで培ったビジネスリテラシーと、相手の持つ専門的なナレッジを引き出すヒアリング力を活かし、顧客の事業成長を支えるナーチャリングコンテンツを制作している。日本インタビュアー協会認定インタビュアー。


