競合と戦わず「想起」される存在へ。急成長企業が実践するカテゴリー戦略のプロセスとは
2026/02/10
自社のサービスは悪くないはずなのに、なぜか商談につながらない。
競合が多くて、価格競争に巻き込まれてしまう。
そんな悩みを抱えるマーケターが今、こぞって手に取っている一冊の本があります。それが、suswork株式会社 代表取締役・田岡 凌さんの著書『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略 頭に浮かべば、モノは売れる』です。
今回は、実際に田岡さんの指導のもと自社のカテゴリー戦略を実行しているグロースソイルの髙橋が、カテゴリートップに立つための具体的なプロセスについて、田岡さんに詳しく話を伺いました。
カテゴリーを絞ると、やるべきことは「シンプル」になる
髙橋:
田岡さんは現在、スタートアップから大企業まで数多くの戦略支援をされていますが、実は私もsusworkさん主催のプログラム「Category Challengers」に参加させていただいています。弊社も以前は「コンテンツマーケティング」という広い領域で発信していましたが、アドバイスを受けて「ナーチャリング」というカテゴリーに絞りました。これ、やってみて驚いたのですが、動きがスリムになりますね。
田岡さん(以下、敬称略):
素晴らしいですね。実際、カテゴリーを絞ることで定量的・定性的な変化はありましたか?
髙橋:
カテゴリーを絞る前はターゲット外の方との商談も多く、受注率はあまり高くない状況でした。しかし、カテゴリーを絞ったあとはターゲットに合致する方からのインバウンド商談が大半を占め、ほとんどの商談が有効商談化するといった変化が生まれています。
田岡:
まさにそれがカテゴリー戦略の効能です。カテゴリーが決まると、やるべきことが一気にシンプルになるんです。
「カテゴリーを定めること」というと難しく聞こえるかもしれませんが、実は「“Who”を定めること」とほぼ同義です。自分たちが価値を提供すべき「コアターゲット」は誰なのか、彼らが本当に抱えている潜在課題は何なのか。そこを定義し、ソリューションを当てていく。自分たちの旗を明確にすることで、理想的なお客様が集まる状態をつくるのがカテゴリー戦略のゴールです。

「真の原因(ボトルネック)」は、必ず一つに集約される
髙橋:
グロースソイルを例に挙げると、ナーチャリングにおける課題はコンテンツ不足やMAの運用難易度など、複数に分かれると感じています。こうした課題を並列で発信していくのと、一つに絞るのとでは、どちらが理想的なのでしょうか。
田岡:
複数の課題を並列に扱うと、カテゴリーを取る力は弱まると考えています。メッセージはシンプルであればあるほど強い。メッセージをシンプルにするためには、複数の課題に対するさらなる深掘りが必要です。
髙橋:
深掘り、ですか。
田岡:
はい。成果を最大化させるためのボトルネック(真の原因)は、必ず一つなんです。
例えば整体で言えば、訪れる方は「首が痛い」「腰が痛い」「運動習慣がない」といろいろな悩みを抱えているように見えます。ただ、そうしたお悩みの原因を探っていくと、「インナーマッスルの不足」といった共通のボトルネックにたどり着くことがあるんですね。
ナーチャリングも同じです。グロースソイルさんはコンテンツ制作だけでなく、戦略やMAの設計にもサービスを広げられましたよね。それは、お客様が「コンテンツ不足」という表面上の課題以前に、そもそもナーチャリング活動全体を貫く「戦略の型がないこと」が真のボトルネックだと気づいたからではないでしょうか。
髙橋:
おっしゃる通りです。「コンテンツがない」以前に、MAとコンテンツが分離してしまっている戦略の欠如が真因だと考えました。
田岡:
その真因を見つけ出し、「あなたの課題はここですよ」と啓蒙していく。これが、マーケットを創るということです。シャープにすればするほど、お客様の行動を変えるカテゴリーを生みだしやすくなります。

カテゴリー浸透を成功させる、3つのフェーズ
髙橋:
著書『カテゴリー戦略(後略)』のなかでは、カテゴリーを掌握するまでに踏むべきステップが体系化されています。具体的にどのようなプロセスで進めるべきでしょうか。
田岡:
本では14の施策を紹介していますが、私はカテゴリ戦略を大きく3つのフェーズに分けて考えています。

フェーズ1:初期浸透と仮説検証
まずは「1人のリアルな顧客」の課題に深く刺さるソリューションをつくることです。1人のお客様に深く刺さらないものは、100人にも100万人にも届きません。理想的な顧客を見つけ、その人の「潜在課題」に対して、自分たちの価値(Who・What)が完璧にハマる状態になるまでサービスやプロダクトを磨き込みます。
ここでは拡大を考えず、あえてイノベーターを対象にしつつ、確実に成果が出る勝ち筋を見つけるのが最優先です。実は「既存のお客様の深淵に入り、組織の動向やファクトを認識すること」こそが、このフェーズで最も重要だったりします。
フェーズ2:信頼獲得と再生産
フェーズ1で「刺さるロジック」が見つかったら、次は「再現性」を作ります。 1人に刺さったメッセージを、100人、1000人に広げていく段階です。
ここでは市場を啓蒙しつつ、「なぜ自分たちがその課題を解決できるのか」というロジックや実績を示すことで信頼を獲得していきます。この段階で初めて、受注率や商談数の予測(パイプライン)が立てられるようになります。いわばPMF(プロダクトマーケットフィット)の直前の状態ですね。
フェーズ3:最大出力での拡大
最後が、投資を最大化させる「Who・What・How」の最適化です。 ここでは「どう伝えるか(クリエイティブ)」や「どこで伝えるか(媒体・タッチポイント)」を開発します。
多くの企業がいきなり「タクシー広告を出せばいい」といったように施策単体で考えがちですが、伸びている企業は独自の「How」を開発しています。 例えば、ターゲットが「大企業の部長クラス」であれば、広告よりも「2時間の体験型セミナー」というタッチポイントを開発するほうが、理解と導入につながることがあります。
このように、投資対効果が確実に見込める「独自の経路」を特定し、そこに資本を集中させて一気にシェアを広げるのがこのフェーズの要点です。
一足飛びの投資は危険。初期ユーダーに徹底的に向き合うことがグロースへの近道
髙橋:
多くの企業、特に資金調達をしたスタートアップなどは、認知度を一気に上げようと「フェーズ3」の広告宣伝から入りたがりますよね。これにはどんなリスクがあるのでしょうか。
田岡:
フェーズ1・2の精度、つまり「誰に何が刺さるか」の検証が不十分なままフェーズ3に突っ込むと、マーケティングの経済性(ユニットエコノミクス)がどんどん悪化してしまうんです。
結局、何が刺さっているのかよくわからない商材を、多額の広告費を使って無理やり「押し売り」するような状態になってしまう。これでは、いくら投資をしてもザルで水を汲むようなもので、スタートアップにとっては資金を溶かし、事業を撤退に追い込むような致命的な打撃になりかねません。
髙橋:
「とりあえず有名になれば売れるはずだ」とブランディングに走ってしまうのは、順番が逆だということですね。
田岡:
そうですね。特定の顧客に刺さっていない状態でブランディングや大規模な広告を始めてしまうと、いつまで経っても事業が軌道に乗りません。だからこそ、まずははじめのリアルな顧客で理想の状態を作り切ることが何よりも大事なんです。
髙橋:
カテゴリーの検証フェーズにおいては、新規開拓よりも既存のお客様の深淵に入っていくことの方が重要になるということでしょうか。
田岡:
フェーズ1においては、まさにそこが重要ですね。まずは1人のお客様の深い、本当の課題を見つける。そして、そこに対して「一発で解決できるソリューションのコンセプト」をしっかり作り上げることです。
髙橋:
そこで見つけた真因を解決するからこそ、その後の「啓蒙」や「拡大」が機能するわけですね。
田岡:
おっしゃる通りです。お客様自身も、自分の本当の課題(真因)には気づいていないことが少なくありません。そこをしっかりヒアリングし、組織の動きやファクトを認識するなかで、「実はこれが原因だったんだ」という真因を見つけ出す。
その真因に刺さるロジックが初期ユーザーで証明されて初めて、100人、1000人へと広げていく再現性が生まれます。遠回りに見えるかもしれませんが、このステップを限りなく早く、解像度高くやり抜くことこそが、グロースへの一番の近道といえますね。

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著者: 田岡 凌
出版社: ダイヤモンド社
この記事の執筆者
グロースソイル編集部


